第169章 道徳的な圧力をかける

「知夏、ここにいる」

その声に、温井知夏が顔を上げる。

案の定、エレベーターの隅に、九条司のすらりとした長身が立っていた。

180センチは優にある背丈。

この狭い箱の中では、どうしたって目立つ。

振りほどかれた小さな手を見つめ、九条杏奈はたちまち目を潤ませた。唇を震わせ、縋りつくように言う。

「ママ……杏奈のこと、捨てないで。これからはいい子にする。絶対にママを怒らせない……」

「パパのところへ行きなさい」

温井知夏はそれだけ言い捨て、背を向けた。もう、この父娘を見ない。

だが次の瞬間、周囲からひそひそ声が立ち上がる。

「ひどい女ね。あんなに泣いて頼んでるのに、顔色ひとつ...

ログインして続きを読む