第193章 キスをせがむ

その夜。

温井知夏は会社で残業し、時計が22時を回ってからようやく退社した。

エレベーターで下まで降り、華天タワーを出るまでの間、九条司と鉢合わせることは一度もない。

プッ、プッ――。

クラクションが鳴った。

音のするほうへ目をやると、路肩に一台の車が停まっている。黒崎冬馬がいつも乗っている黒のベントレーだった。

「どうして来たの?」

黒崎冬馬はドアを開けて降りると、車体を回り込み、彼女の前で足を止めた。見下ろすように瞳を捉え、口元だけで淡く笑う。

「今の俺の立場は、君の彼氏だ。彼女を迎えに来るのは義務だろ」

男女の関係を、彼はいつでも口にする。

熱を帯びた視線を真正面か...

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