第26章 いつもと違う彼女

「それは……よくないです。私、怖くて……」温井知夏は反射的に断った。

黒崎冬馬は軽く頷き、諭すように言う。

「大丈夫。今は仕事じゃない。楽しむ時間だ。遠慮はいらない」

励ますような眼差しを向けられ、知夏の胸がふっと揺れた。

「……分かりました。やってみます」

温井知夏はステージへ上がる。

天井のスポットライトが降り注ぎ、彼女の輪郭を浮かび上がらせた。

通訳の役目が終わったあと、知夏は着替えていた。黒のロングドレス。しなやかに落ちる生地が、今夜の空気に溶け込む。

深く息を吸い、ヴァイオリンを手に取った。

調弦はすでに済んでいる。だが指先の感覚を確かめるように、短く弓を走らせる...

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