第34章 耐え難い過去

「……ええ」温井知夏は立ち上がり、ドアへ向かった。

その瞬間、扉が押し開かれ、九条司が入ってくる。視線がぶつかり、空気が凍った。

二人とも、足を止める。

相手が九条司だと分かった途端、温井知夏は思わず眉をひそめた。

――しくじった。司が来る前に、さっさと顔だけ出して帰ればよかったのに。

九条司は彼女を見つめ、声が震えた。

「知夏……ほんとに、お前だ。戻ってきたんだな……!」

目の前に本人が立っていなければ、また夢だと思っただろう。

この一か月、彼は何度も何度も、知夏が自分のところへ帰ってくる光景を想像した。以前みたいに、目の中に自分だけを映す、やさしい妻に戻ってくれる幻想を。...

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