第35章 彼は彼女を迎えに来る

「さあ、ママが帰ってきたんだから。早くママとお話しなさい」

九条美幸はそう言いながら、胸の奥で思っていた。杏奈は温井知夏が十月十日かけて産んだ子だ。母親がどれほど冷たくなろうと、本当に子どもを切り捨てられるはずがない、と。

「おばあちゃん……」九条杏奈は唇を尖らせ、気乗りしない顔をした。

「九条夫人、子どもを追い詰めないでください」温井知夏が淡々と言う。

戻ってからずっと、娘は黙ったまま小さな顔をこわばらせている。温井知夏も、わざわざ温い顔で冷たい頬に触れにいくつもりはなかった。

コンコン——

またノックが響く。

中の誰かが返事をする前に、外の人物が勝手にドアを押し開けた。

...

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