第60章 誰かが嫉妬する

「……本当に決めたのか?」

長橋秀樹は意外そうに眉を上げた。

あの頃の知夏は、恋に落ちたら最後だった。止めようにも止まらない。将来も仕事も、「要らない」と言わんばかりに手放した。

「うん」

温井知夏は静かに頷く。離婚する気持ちは揺らいでいなかった。

長橋秀樹は知夏の肩をぽんと叩き、慰めるように言う。

「後悔しないなら、それでいい」

離婚の理由を聞くことはしなかった。わざわざ傷口をえぐる必要もない。

温井知夏の顔つきを見れば、もう吹っ切れているのが分かる。

師匠がここまで味方をしてくれるとは思わず、温井知夏の胸には、いろんな感情が押し寄せた。

長橋秀樹が最後に取った末弟子。...

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