第64章 『極夜』での遭遇

「それではこれよりスタート。500万から――500万……こちらの男性、550万! ほかにいらっしゃいませんか……!」

司会者の声がマイク越しに響き、会場の隅々まで震わせた。

温井知夏は翡翠の仏像から視線を逸らせない。仮面の下で唇を噛みしめすぎて、血の味がした。

隣の黒崎冬馬が、彼女の異変に気づく。

「知ってる品なのか?」

「……ええ」温井知夏の声は、喉の奥で押しつぶしたみたいにくぐもった。「父が生前、身につけていたものです」

あの小さな欠けは、子どもの頃――自分がふざけてぶつけてしまった傷。

それが、まさかここにあるなんて。

温井家が崩れた当時、温井の古い実家は差し押さえを受...

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