第95章 口づけ

「俺だ」温井知夏は小さく頷いた。

黒崎冬馬が掠れた声で言う。

「知夏……つらい」

そう言うなり、男は自分の襟元を乱暴に引き裂いた。

ぱちん、とシャツのボタンが二つ弾け飛ぶ。露わになった喉仏が、妙に艶っぽい。

温井知夏は思わず息を呑んだ。

酔ってる……?

「冬馬、どれだけ飲んだの?」

「知夏……」黒崎冬馬は彼女の名だけを、熱に浮かされたみたいに呟く。

温井知夏はそっと近づいた。

「うん。ここにいるよ」

黒崎冬馬はそれ以上、何も言わない。ただ瞬きもせず、彼女を見つめ続けた。

目が合った瞬間、温井知夏の表情が凍りつく。

青い瞳は水膜を張ったように潤み、白目の端まで赤く染ま...

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