第97章 仇敵道狭し

「唇に食べかすがついていました」

黒崎冬馬がやわらかい声で説明した。

「……そうだったんですね」

温井知夏はかっと頬を熱くし、気まずそうにまばたいた。

すると、男がどこか含みのある笑みを浮かべてこちらを見ている。

温井知夏は慌てて話題を変えた。

「そうだ、体の具合はどうですか。薬がまだ残ってたりしませんか? よければ病院で診てもらいません?」

昨夜の薬が体に負担をかけていないとも限らない。念のため、一度検査したほうがいい。

あくまで親切心から口にしただけだった。

黒崎冬馬は最初、もう大丈夫だと言いかけた。だが、ふいに考えを変え、そのまま頷く。

「はい。お願いします」

「...

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