第9章

奈央視点

裁判所の外壁は、もはや見えないほどだった。血の匂いを嗅ぎつけた飢えた獣のように、報道陣の群れが、ひしめき合い、互いを蹴落とし、カメラの砲列を構えていた。けたたましいシャッター音と、怒号にも似た記者の声が、絶え間なく空気を切り裂く。その嵐のような喧騒とは裏腹に、俺は傍聴席の、最も遠い隅で、ほとんど息を潜めるように立っていた。

両の掌に包み込んでいたのは、玲子の、あまりにも小さくなった遺骨の箱。それは、まるで彼女の消えることのない魂が、今もその中で、静かに、しかし力強く燃え続けているかのように、じんわりと、確かな熱を帯びていた。

その温もりは、俺の凍り付いた心を溶かし、まる...

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