第2章 あの個室の大物は一体何者?
オークション会場の司会者は、いつもの冷静さを失い、一瞬固まった。百億という数字に。
「百億、一回目」
「百億、二回目」
「百億、三回目」
ハンマーが落とされた。
司会者は神秘的な個室に目を向け、「S001個室のお客様、富士山のゾンビの落札、おめでとうございます。スタッフがご案内いたしますので、お手続きにご同行くださいませ」
すぐに観覧席が静かに下降し、金の檻も人々の視界から消えていった。
観覧席では嘆きの声が上がった。「はぁ、資金が足りなかったよ」
「S001個室の方って、一体どんな方なんだろう?」
「正体は分からないけど、お金持ちなのは間違いないね」
横にいた痩せぎすの男が葉巻を吸いながら言った。「金だけじゃあの席には座れないんだ。インターコンチネンタルオークションのS001個室はそう簡単に入れる場所じゃない。
前回は某国の大統領、その前はヨーロッパの王族の皇太子様だった。誰もが世界的な権力者ばかりだ。今回の方は身分すら分からないとはね。ふむ、よく考えてみな」
しっ!
周囲から驚きの声が漏れた。S001個室の客が、そんな大物ばかりだとは。今回は一体誰なのか。
人々が熱心に議論している最中、黒い旗袍に金の蟷螂の刺繍が入った、曲線美を誇る侍女がヒールを鳴らしながら近づき、白く細い指でS001個室のドアをノックした。
「お客様、牡丹が当主の命により、ご案内に参りました」
夜十神望は黒いマスクを付け、専用のソファから立ち上がり、ドアへと向かった。
夜十神謙介がドアを開けると、外に立っていた牡丹は心得たように深々と頭を下げた。
視界に入ったのは、高級な革靴を履いた長い脚だけだった。
傍らの夜十神謙介が口を開いた。「案内してくれ」
「こちらへどうぞ」
……
オークション会場の控室は三階にあった。金の檻の中で少女が跪いており、慵懒に檻に寄りかかっていた。その瞳は清らかな水のように澄んでいたが、感情は読み取れなかった。それでもなお、その双眸には活気が宿り、少しの虚ろさもなかった。
高貴な猫のように。
金の檻の外の黒い革のソファには、髪を束ねた男が座っていた。銀のマスクは脇に無造作に置かれ、彼が檻の中の少女を見つめながら何かを言おうとした時、突然のノックで遮られた。
「お客様、S001個室のお客様がお見えです」
銀と呼ばれるその男は、インターコンチネンタルオークションの表の顔だった。
声を聞くと、視線を外し、ソファから立ち上がって冷たく言った。「入れ」
ドアが開き、牡丹は深々と身を屈め、中へ手を差し出して恭しく迎え入れた。「どうぞ、お入りください」
一瞬にして、部屋全体が氷に覆われたかのような冷気に包まれた。それは一人の人物からのものだった。
先頭を歩く男は背が高く、高級なオーダーメイドスーツを一糸乱れず身に纏い、黒いマスクの上から覗く琥珀色の瞳は妖しく冷たかった。
歩みは優雅そのものだったが、放つ威圧感は息も詰まるほどで、誰もが跪きたくなるような圧迫感があった。
これが噂の夜十神望か。権力と富を併せ持つ謎の男、光と闇の狭間を渡り歩く無冠の王か。
「夜十神様」
銀は内心の動揺を抑えながら、軽く頭を下げた。
彼は銀、インターコンチネンタルクラブの表の顔である。彼が頭を下げる相手など、この世界でもごく僅かしかいない。
夜十神望は銀に一瞥もくれず、真っ直ぐに金の檻へと歩み寄り、その前で立ち止まった。























