第6章
哲平が大股で私の方へ歩いてくる。
店内の照明は薄暗いが、それでも彼の口元に付着した口紅の跡は、はっきりと見て取れた。
——鮮烈な赤。まるで私の滑稽さを嘲笑うかのように、べっとりと張り付いている。
「律子、聞いてくれ、これは——」
私は何も答えず、鞄から離婚届を取り出すと、彼の胸に押し付けた。
「長年の付き合いだもの。これ以上、醜態を晒したくないわ。サインして」
彼は呆気にとられ、胸元の書類を見下ろした。やがて弾かれたように顔を上げ、その瞳に狼狽の色が走る。
「お前……知っていたのか?」
私は小さく頷き、淡々とした視線を離婚届に落とした。
「不倫を選んだのはあなた...
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