第163章

「仕事は急がない。私には、もっと大事なことがあるの」

柚木結華は翳りのある表情でそう言った。

「不思議な玉の話を、何度も耳にしたの。母に関係してる」

結華はまぶたを伏せたまま、抱きしめている九条獅堂の顔色がふと変わったことに気づかない。けれどそれは一瞬で、すぐいつもの無表情に戻った。

「どんな玉だ?」九条獅堂が問う。

「形までは分からない。でも確かなのは――母にとって、すごく大切だったってこと」結華は答えた。

祖父の遺品を皆で整理していた時、彼女も手伝おうとして、祖父の腕時計のベルトを手に取り、叔母さんへ渡した。

そのベルトに触れた瞬間、結華の脳裏に、途切れ途切れの映像が流れ込...

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