第170章

柚木安高は微笑みを浮かべたまま、もう一度カップを持ち上げてコーヒーをひと口含んだ。

「失礼します」

返事がない。柚木結華は、これ以上聞いても無駄だと悟ると、立ち上がって大股でその場を離れた。

彼女の背が遠ざかった瞬間、柚木安高の顔から笑みがすっと消える。テーブルに残された、手もつけられていないコーヒーを見つめ、瞳の色がじわじわと深く沈んでいった。

やがてスマホを取り出し、短く電話をかける。

「用意しておいた資料、出していい」

それだけ言うと、柚木安高は目の前のコーヒーを乱暴に持ち上げ、一息に飲み干した。

柚木結華は車で帰宅し、彼の異変には気づかなかった。

……

数日後の朝8...

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