第31章

柚木結華は車を降りると、七瀬伊江がすでに建物の中へ入っていくのを見送った。ここへ来たのは仕事の用事なのだろう。そう思い、追いかけなかった。

ちょうどタクシーが通りかかる。柚木結華は手を上げて止め、背後の車内から突き刺さるような視線には構わず、行き先だけ告げてそのまま走り去った。

九条陽向は、柚木結華が自分と一緒に帰るくらいならタクシーを選ぶ姿を、ただ呆然と見ていた。胸の奥に綿をぎゅうぎゅうに詰め込まれたみたいで、ふわふわしているのに息がしづらい。

何度も説明した。なのに、どうして信じてくれない?

――その瞬間、九条陽向の目がぱっと光った。

清美と付き合い始めてからというもの、柚木結...

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