第38章

柚木結華は足を止め、眉をひそめて柚木安東を見た。安東は彼女を睨みつけ、顔じゅうに怒気を滲ませている。

母が亡くなったとき、柚木安東は一日だって悲しんだことはない。結華が二十を過ぎてからも、一度だって労わってくれたことはない。なのに今は、林田美菜子のために、胸を抉られたみたいな顔をしている。

結華は特殊能力に関する資料を見つけられず、ここは引き上げようとした。無駄に厄介ごとを背負う気はない。けれど――向こうはそう思っていなかった。

結華は視線を素早く逸らし、キッチンへ入る。家政婦の手から果物ナイフを奪うように取ると、そのまま駆け出した。

「きゃあっ!」

背後で家政婦が悲鳴を上げる。

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