第69章

柚木家のマンション前。

柚木結華の歩みは、だんだん遅くなっていった。

目の前の男があまりにも目立つせいで、通りすがりの男女が次々と視線を向けてくる。でなければ、自分の見間違いだと思ったかもしれない。

九条獅堂は片手をポケットに突っ込み、車のフロントに凭れ、もう片方の手に煙草を挟んでいた。表情は冷え切っている。

彼が理性を失ったときの狂気も、仕事に没頭する横顔も、結華は知っている。

そして今――胸の内に何かを抱え込んだその顔もまた、息を呑むほどに危うくて、目が離せなかった。

今日は黒のスーツ。皺ひとつないほど整えられていて、深い眉眼の下の瞳には濃霧が絡みついたみたいに影がある。見つ...

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