第70章

柚木家。柚木陸の寝室に、年老いた声が響いた。

「結華」

返事がない。

柚木陸は霞んだ目をゆっくり開け、がらんとした部屋を見回した。胸の奥が、すとんと落ちる。

半身を起こして窓の外へ視線をやると、庭には数人が三々五々に立っているのに――柚木結華の姿だけが見当たらない。

身の回りの世話をする家政婦が入ってきて、起き上がるのを手伝いながら尋ねた。

「ご夕食は、何がよろしいですか」

「結華は帰ったのか」

柚木陸の声は低く、冷たかった。

「結華様は、陸様が眠られたのを見届けてから、お嬢様と少しお話しになって……それから、ほどなくお帰りになりました」

家政婦は、彼が結華を気にかけてい...

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