第84章

彼の返答は意外だった。

「ありがとうございます」

柚木結華は救急箱を提げて九条獅堂のそばへ戻ると、ガーゼを見て一瞬だけ固まり、片膝をつくようにしゃがみ込んだ。手際よく外し、すぐに新しいものを当てて包帯を巻いていく。

正直、わからない。

九条獅堂の美意識なら、こんな不格好な巻き方は気に入らないはずだ。薬代だって、彼にとっては誤差みたいなものなのに。

九条獅堂は、彼女の慎重すぎるほどの指先と、艶のある黒髪を見つめた。

その匂いも、指で梳いたときの感触も――知っている。

ふと、目の奥に淡い執着が滲む。

もう一度、確かめたくなった。

「できました」

柚木結華は満足げに立ち上がる。...

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