第85章

柚木結華は一瞬きょとんとして、背後を振り返った。

九条獅堂はスーツに着替え、白いシャツの襟元を少しだけ崩したままソファへ腰を下ろす。

「葉山さんは宝飾デザイン界の泰斗だ」

背もたれに身を預けた九条獅堂は、気品を纏いながらも肩の力が抜けていた。H市の誰もが畏れる九条社長の顔に、すっと戻っている。

「デザインだけで言えば、ついていく価値はある」

ここまで率直に言うとは思わず、柚木結華はわずかに目を瞬かせた。

家の事情で幼い頃からこの業界に触れてきた彼女は、デザインだけではなく原石の目利きや加工の腕も同じくらい重要だと知っている。

九条獅堂が目の前の男を認めている以上、柚木結華に断る...

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