第93章

柚木安高は席にどっしりと腰を据え、悠然と茶を淹れていた。表情は波ひとつ立たない。けれど――視線の端だけが、柚木結華が去っていった廊下の奥を追っている。

安高の部屋を出ても、結華の胸は軽くならなかった。

これ以上ないほどの餌を投げたはずなのに、あの男は微動だにしない。なら、柚木家のほかの連中の欲は、なおさら底が知れないだろう。

自分は特殊能力の価値を甘く見ていた。

そして、闇に潜む誰かの存在も。

祖父はまだ休んでいる。結華は寝室を覗きもせず、向かいの書斎へ戻った。

このところずっと、祖父の世話のためでもあり、様子を見るためでもあり、結華は書斎に寝泊まりしている。広い部屋だ。壁一面の...

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