第141章 理性を失う

来栖琴音はまた息をのんだ。受話器を握る手に力が入り、自分の声がかすかに震えるのがわかる。

「……どこにいるの?」

返事は秒だった。

「家の下!」

浅野琉生がそう言い終えた直後、スピーカーの向こうで慌ただしい足音が駆けていく。次いで、しゃっと布が擦れる音。上の階の窓のカーテンが勢いよく引かれ、見慣れた影が視界に飛び込んできた。

十数メートル。離れているのに、彼の視線が熱を持って肌に刺さるみたいだった。

「待ってて。今、下りる」

通話は切らないまま、琴音はスマホを握ってそっと階段を下りた。

エレベーターを出た瞬間、ほとんど駆け出していた。車にもたれて立つ背の高い影へ、一直線に。

...

ログインして続きを読む