第190章 助け舟

来栖琴音は唇をきゅっと尖らせた。たった数文字。そこから彼の腹の内を読み取れというほうが無理だ。

浅野琉生は彼女の前まで歩み寄り、値踏みするように目を細める。

「昨夜、怖い思いしたか?」

その一言で、琴音はほぼ確信した。槙田さんは――この男が呼んだ、助け舟。

「いいえ。むしろ今日のほうが、びっくりしました」

来栖琴音は淡々と返した。

昨夜の騒ぎより、今日のほうがよほど刺激が強い。とくに川島治がやらかした一件は、彼女の面目を丸つぶしにした。

以前は不倫相手が乗り込んできて離婚騒動で、J市中の噂になった。

今度は元夫が暴れたせいで、守音ビルの社員全員に――昨夜、彼女が危うく元夫に売...

ログインして続きを読む