第43章 吐き気

川島治はぎょっとして、そこでようやく彼女の左手に包帯が巻かれているのに気づいた。

「琴音、どうしたんだ? なんで怪我なんかしてる? 見せてくれ!」

慌てふためくその様子は、とても芝居には見えない。けれど来栖琴音は、それを見れば見るほど胸が締めつけられた。

まさか、十年近く連れ添った男が、ここまでの役者だったなんて。

その才能があるなら、社長なんて生ぬるい。いっそ芸能界にでも入って、思う存分スポットライトを浴びればいい。

琴音が黙ったままでいると、川島治は苛立ったように声を荒らげた。

「どうしたのかって聞いてるんだ。ちゃんと答えろよ!」

月乃を怯えさせたくなくて、琴音はわざと鬱陶...

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