第90章 娘を利用する

あまりにも一瞬の出来事で、来栖琴音は反応する間もなかった。身体ごと弾かれ、横へ倒れ込む。

倒れた先――そこは、ローテーブルの角だった。

伊藤心優が咄嗟に手を伸ばしたものの、掴めたのは琴音の服の端だけ。止めきれないまま、彼女が落ちていくのを見てしまう。

ドンッ……。

川島のお母さんが目を見開き、悲鳴を上げた。

こめかみに、骨まで刺さるような痛み。次いで、額から温かいものがとろりと流れ落ちてくる。

伊藤心優が真っ先に駆け寄り、野村さんと川島のお母さんも慌てて周りに集まった。

川島千晶は川島治の腕を掴んで引き止め、正気を失ったみたいに怒鳴り散らす。

「放っときなさいよ! どうせ演技...

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