第53章

佐藤松郎は一瞬ぼんやりとした後、すぐに気づいた。これはあの伝説の古川教授ではないだろう。

あの古川教授は医学界の大家とも言える人物で、普段は病院での診察も予約が取れないほどの人気だし、講義も満席で、学生たちは自分で椅子を持って聴講に来るほどだ。

佐藤安奈がそんな大物と知り合いであるはずがない。

監督試験に自ら来るというのも嘘の情報かもしれない。あのレベルの人物が、暇つぶしに試験監督などするはずがないだろう。

ところが、佐藤安奈がためらいながら尋ねるのが見えた。

「古川教授?」

古川教授は親しげに頷いた。

「君が佐藤安奈さんだね。佐藤さん、今日は受験生は君一人だか...

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