第57章

樋口さんは一瞬固まり、視線をわずかに動かした。キッチンの曇りガラス越しに、佐藤安奈の華奢で忙しそうな影が映っていた。

「安奈が私を害そうとしているなら、なぜわざわざ誰かが私の薬に毒を入れていると指摘するでしょうか」早坂晋也は淡々とした口調で言い、細長い瞳に嘲りを宿した。

「安奈の警告がなければ、これだけ長く毒を飲み続けていたら、私はもう死にかけていたでしょうね」

その言葉を聞いた樋口さんの顔色が一変した。

「まあ、縁起でもない!そんな死だの何だのと言わないでください」樋口さんは眉をきつく寄せた。

一瞬のうちに、本当に恐ろしくなった。

樋口さんは迷信深く、両手を合わせ...

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