第15章 好きにしろ

太田さんは首を横に振った。

「奥さまは、何も……」

白鳥空弥はダイニングテーブルのそばに立ったまま箸を取り、卵焼きをひと切れつまむ。

こんがりとした黄金色。厚すぎず薄すぎず、端がほんのり反り返っている。――昔から彼がいちばん慣れていた食感だった。

二、三度噛んだところで、箸を置く。

「好きにしろ」

まるで自分には無関係だ、と言わんばかりの声音。

向かいに座る北斗は、その言葉を聞いて、手にしていた卵焼きを宙で止めた。父をちらりと見てから、また視線を落とし、黙って食べ続ける。

朝食のあいだ、林田柊の名前は二度と出なかった。


林田柊がS市へ戻ったのは、もう午後だった。

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