第16章 順路ではない

「……お父さんと、お母さん?」

先生が言った「母親」は、彼女のことじゃない。相馬祈のことだ。

林田柊の口元が、わずかに動いた。

「……そっちとは、方向が違います」

平然としているように見えたが、彼女はすぐにスーツケースの取っ手を掴み、研究所のビルへと引き返した。

深く息を吸い込み、建物を見上げる。

正門の前――階段の上に、白髪の老人が立っていた。古びたジャケット、手には保温ボトル。

曾我教授だ。

林田柊は肩の力を抜き、微笑んで頭を下げる。

「先生、お待たせしました」

「来たならいい」

曾我教授は、彼女が余計なことを話したくないのを察したのか、それ以上は聞かずに踵を返した...

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