第69章 どうして彼女を見逃せようか

だが、そのときだった。前列の相馬祈が、ふいに振り返った。

その視線は人の波をまっすぐ貫き、林田柊が座る隅の席へ――寸分違わず突き刺さる。

相馬祈の口元が、悪意に歪んだ。

最初から知っていたのだ。林田柊が、そこにいることを。

彼女は体を戻し、白鳥空弥の耳元へ身を寄せて何か囁く。

次の瞬間、白鳥空弥が手元の札をすっと掲げた。

「1億!」競売人が興奮気味に叫ぶ。「白鳥社長、いきなり1億でのご入札です!」

林田柊の手が、宙で止まった。

隣の松本佳子が勢いよく振り向き、怒りで声を震わせる。

「わざとだよ! 相馬祈、あんたに気づいてる! あんたが欲しいものを奪う気なんだ!」

林田柊は...

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