第70章 ただの木偶

御曹司仲間が数人、廊下の片隅にたむろしていた。そこに芳賀樹の姿もある。

林田柊と松本佳子は、思わず足を止めた。――自分の名前が聞こえたからだ。

「樹さん、さっき中でなんであんなに乗っかったの? 刺繍なんて好きじゃないだろ」

御曹司の一人が、からかうように笑う。

芳賀樹は煙をふっと吐き、いかにも気まぐれな調子で言った。

「面白そうだっただけ。最初、林田柊が一人で隅っこに座っててさ。妙に冷めてるし、気が強い硬骨漢かと思った」

灰を落とし、鼻で嗤う。

「蓋を開けたら、ただの木偶だ。旦那と浮気相手に頭の上で好き勝手されて、奪われても何もできない。つまんねぇ」

「だよな。白鳥空弥が相手...

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