第77章 ろくなものじゃない

林田柊は踵を返し、ロビーへ戻ろうとした。

「林田嬢」

右手から、低く落ち着いた男の声が飛んでくる。

林田柊は足を止め、振り向いた。

加賀伊吹が、庇の脇――影の濃いところから姿を現した。両手はコートのポケットに突っ込んだまま。肩には風に運ばれた銀杏の葉が数枚、貼りついている。ここで、しばらく待っていたのだろう。

林田柊の神経が一気に張り詰めた。

覚えている。

リゾートのエレベーターホールで一度。オークション会場でも、見かけた。

「加賀殿、何か?」

加賀伊吹は二歩ほど近づき、彼女の前で止まった。庇の灯りが横顔を照らし、輪郭は鋭いのに、目だけは不思議なくらい静かだった。

「二分...

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