第3章 親との縁を断つは今から始まる

南斗はその声を聞いて、手を引っ込めた。

階下に下りると、湘子が顔を真っ赤にしているのが見えた。明らかに体温が普通ではない。「車を回してくる。すぐに病院へ行こう」

南斗は北斗と一緒に湘子を病院へ連れて行った。

二階の寝室。

檸檬はベッドに横たわり、顔を真っ赤にして絶え間なく汗をかいていた。

一晩中、彼女の体はふわふわと浮いているようで悪夢にうなされ続けていた。

翌日、檸檬のスマホがひっきりなしに通知音を鳴らしていた。

その音で起こされた檸檬は不機嫌な顔でスマホを開くと、とあるアプリからのプライベートメッセージの通知だった。

開いてみると、ほぼ一面、罵詈雑言で埋め尽くされている。

その罵詈雑言には少しも見覚えがないわけではなかった。昨夜、彼女が湘子を突き飛ばして水に落とすまでの一部始終が、何者かによって学内掲示板にアップロードされていたからだ。

湘子は学校で人気が高く、その人たちは皆、正義感に駆られて彼女を罵倒しに来たのだ。

檸檬は頭が爆発しそうなほど痛んだが、自ら参戦して応酬した。

母親を主語に、親戚と生殖器を形容詞にして、いきなり大技を繰り出した。

掲示板のスレッドは瞬く間に千件以上に達し、管理者はフォーラムがハッキングされたのかと肝を冷やした。

檸檬はメッセージを送り終えると、スマホを放り投げて再び横になった。

どうせ今は高坂家の人間に媚びる必要もないし、評判なんて気にする必要もない。

こんなに息苦しく生きたくはない。

ほどなくして、外から使用人のノックが聞こえた。「お嬢様、学校へ行く時間です。遅刻してしまいますよ」

ん?

檸檬は今日、確かに学校へ行かなければならないことを思い出した。

彼女は冷水で顔を洗い、意識をはっきりさせた。

高坂家から独立するには、学業を修め、大学に合格してここから離れるしかない。

制服に着替えると、鞄を持って階下へ下りた。

南斗と北斗がちょうど外から入ってきたところだった。

南斗は檸檬の顔が少し赤らんでいるのに気づき、まっすぐ彼女の方へ歩み寄るといつもの癖で額に手を当てて熱を測ろうとした。

しかし檸檬は一歩下がり、南斗の手を避けると、身を翻してダイニングへ向かい席に着いた。

しっかり食事をとって早く回復しなければ。そうしてこそ、雲大を目指して勉強に打ち込む気力も湧いてくる。

南斗の手は宙で止まり、気まずそうに下ろされた。

北斗がフンと鼻を鳴らした。「だから言っただろう、こいつは恩知らずで、体だけは牛みたいに頑丈だって。湘ちゃんとは大違いだ。あの子は小さい頃から体が弱くて、昨夜水に落ちただけで風邪を引いて熱を出した。誰が病気になっても、檸檬だけは病気にならないさ!」

南斗は結局何も言わなかった。確かに、檸檬の体は昔からすこぶる健康だった。

彼は食卓に歩み寄った。「湘ちゃんが病気になった。数日間、学校ではお前がしっかり面倒を見て、あの子が元気になるまで世話をするんだ。分かったな?」

彼は檸檬が最近ますます道を外れていると感じており、以前のように甘やかすわけにはいかないと思っていた。

檸檬が恩返しを知らないのなら、無理やりにでも学ばせてやる。

北斗もそれに続けた。「檸檬、湘ちゃんの父親はお前の命の恩人だぞ。それなのに、お前はあの子を殺しかけた。しっかり湘ちゃんの面倒を見て、罪を償わなきゃならねえ!」

檸檬は俯いて真剣に朝食を食べていた。食欲はなかったが、無理をして食べた。

大学入学共通テストまで、もう百日もない。それが終われば、高坂家を出ていける。

北斗は彼女の無反応な態度に不満を覚え、彼女の箸をひったくった。「話しかけてるんだよ、耳がねえのか?」

檸檬が顔を上げると、その瞳は白と黒がくっきりと分かれ、静寂を湛えていた。

北斗は命令口調で言った。「湘ちゃんが薬を飲むときは、お前がお湯を汲んでやれ。昼は代わりに食堂へ行って飯を買ってこい。走って行って、飯が冷めないようにしろよ。トイレに行くのも不便だろうから、お前も付き添ってやれ! あの子の父親はお前の命を救ったんだ。これはお前がやるべきことだ、分かったか?」

檸檬は冷淡な声で言った。「分かりました」

だが、その通りにすると約束したわけではない。

檸檬は無表情で屋敷を出ると、空を見上げ、こみ上げてくる涙をぐっとこらえた。

一度人生をやり直したのだから、もう悲しくなったりしないと思っていた。

それなのに、先ほどの北斗兄さんの言葉を聞いたら、やはり心が針で刺されたように痛んだ。

まだ覚えている。小さい頃、自分が病気になると、南斗兄さんは一晩中そばにいてくれたし、北斗兄さんは冗談を言って、薬を飲むように宥めてくれた。

ただ湘子が体が弱いというだけで、彼女が病気になるたびに兄たちは真っ先に心配するようになった。

いつからか、自分が熱を出しても一人で耐えるしかなかった。

高坂檸檬は喉の奥の苦さを飲み込み車に乗ると、目を細めて休息をとった。

もう少しの辛抱だ。あと百日も残っていない。

学校に着くと、彼女は直接高校三年生の教室へ向かった。

彼女が中に入ると、それまで騒がしかった教室が嘘のように静まり返った。

先ほどの檸檬の学内掲示板での罵倒合戦の戦績は、今や学校中に広まっていた。

皆、檸檬は精神に異常をきたしたのではないかと疑っていた。

「高坂檸檬はいったい何に刺激されたんだろうな。いきなり自暴自棄になっちまって」

「もう取り繕えなくなったから、本性を現したってとこだろ。あれが高坂檸檬の本当の姿なんだよ」

檸檬は周囲のひそひそ話を聞いても気にせず、鞄を置くと、そのまま机に突っ伏して眠り始めた。

午前中いっぱい、檸檬は眠り続けた。

昼休みになると、湘子が教室にやって来た。

湘子の腕には点滴が繋がれており、彼女が現れた瞬間、クラスメイトたちの同情と関心を一手に集めた。

檸檬は眉をひそめ、体勢を変えて眠り続けた。

ほどなくして、誰かが力強く彼女の机を叩いた。

檸檬は苛立ちながら顔を上げると、その白黒はっきりした瞳にどこか殺伐とした光が宿っていた。

目の前には湘子が立っており、その隣にいる取り巻きが不機嫌そうな顔をしていた。

檸檬は目を細めた。

この二人は湘子の取り巻きで、日頃からデマを流して集団で彼女をいじめ、さらには証拠を捏造して兄たちに告げ口することも少なくなかった。

湘子が弱々しく口を開いた。「檸檬姉さん、お昼は何が食べたいですか? 私が買いに行きますから。だから、もう私のこと、怒らないでくれませんか?」

檸檬は冷淡に答えた。「必要ない」

取り巻きの一人が怒りを露わにした。「高坂檸檬、あんた調子に乗らないでよ。湘ちゃんは病人なのよ」

「そうよ、高坂檸檬、あんたが湘ちゃんの学校での面倒を全部見るべきでしょ。あんたのせいで病気になったんだから」

湘子は弱々しく二、三度咳き込んだ。「二人ともやめて。自分のことは自分でできるから。昔からずっと一人だったし。もう言わないで、彼女が怒っちゃうから」

「湘ちゃん、あんたが優しすぎるから、こんなに虐められるのよ」

檸檬は少々苛立ち、席を立って教室を出ようとした。

彼女が教室から出た途端、湘子が突然もたれかかってきた。そのはずみで、点滴を支えていたスタンドが床に倒れた。

そして、ちょうどその割れた瓶の上に湘子が倒れ込んだ。

偶然の母が偶然に扉を開けてやったような、出来すぎた偶然だ。

教室は混乱に陥り、檸檬は騒音で頭が痛くなった。

彼女が口を開いて何か言おうとした瞬間、目の前が真っ暗になり、そのまま意識を失った。

檸檬が目を覚ました時、鼻腔には消毒液の匂いが満ちていた。

ここは学校の保健室だろうか?

「体温三九度。ここまで我慢するなんて、人体の高温自然調理でも体験したかったのか?」

檸檬が横を向くと、白衣を着た男がいた。すらりとした痩身で、マスクを着けているが、目元はひどく冷ややかだ。

彼女は思い出した。新しく赴任してきた校医で、その端正な顔立ちで多くの女子生徒の注目を集めている人物だ。

しかし、口も輪をかけて悪い。

この校医はあまり長くはいなかったはずだ。

檸檬は身を起こした。だいぶ楽になった気がする。点滴が効いたのだろう。

彼女は伏し目がちに言った。「もう帰ってもいいですか?」

「家族が迎えに来るまで待て。途中で死なれても困る。責任は取りたくないんでな」

篠崎千謙は椅子に座ったまま、ひどく気だるげな声で言った。

やはり毒舌な保健医だ。

彼女は掠れた声で言った。「私に家族はいません」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、外から北斗の焦った声が聞こえてきた。「湘ちゃん、大丈夫か? なんでこんな酷い怪我を?」

「北斗兄さん、私はただの擦り傷です。檸檬姉さんを責めないでください。彼女もわざとじゃなかったんです。私が不注意で、ドジだから点滴台を倒しちゃっただけで」

取り巻きの一人が尾ひれをつけて言った。「そんなことありません。湘ちゃんがわざわざ高坂檸檬にご飯を買ってきてあげると言ったのに、高坂檸檬が断って、それを根に持って明らかにわざと湘ちゃんを躓かせたんです。私たち、みんな見ました」

取り巻きの二人がそれに同調した。「そうです。湘ちゃんも病気なのに、高坂檸檬がご飯を食べてないことを心配してくれてたのに、彼女は突然、こんな酷いやり方で湘ちゃんを突き倒したんです!」

それを聞いた北斗の胸の内で、怒りが一気に燃え上がった。

彼の声は怒りを抑えつけていたが、大声で叫んだ。「檸檬はどこだ! てめえ、とっとと出てきやがれ! どの面下げて湘ちゃんにご飯を買ってこさせようとしたんだ? あの子の親父は、お前をあの交通事故で死なせておくべきだったんだ。そしたら、生きて娘を苦しめることもなかったのによ」

檸檬はその言葉を聞いて、口の端を吊り上げ嘲るような笑みを浮かべた。

やはり前の人生と同じだ。湘子の言うことが全てなのだ。

次の瞬間、檸檬の隣のカーテンが勢いよく開けられた。

檸檬が顔を上げると、その小さな顔は青白く唇は白く乾いてひび割れ、全身が病で弱りきっているようだった。

「檸檬、お前……」

北斗は檸檬の姿を見て、それ以上の言葉を喉に詰まらせた。

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