第845章 彼はやはり素直になれなかった

「それはそれ、これはこれです」

高坂檸檬はまったく意に介さない様子でそう言い捨て、車のドアを開けて去っていった。

篠崎千謙は彼女を引き留めることさえできなかった。宙を彷徨った手は、行き場を失ってゆっくりと戻される。

千謙は苛立ち紛れに座席を拳で叩いた。

「あの女……もう勝手にしやがれ」

彼女は分かっているのか。結城震天がどういう人間かということを。

助手席の秘書が恐る恐る口を開く。

「篠崎様、高坂様にボディーガードを二人ほどつけましょうか?」

「余計な世話だ。俺には関係ない。少し痛い目を見れば、自分の立場もわかるだろう」

あの女には本当に腹が立つ。

千謙は顔を覆い、しばらく沈黙した後...

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