第887章 この五年間は全て嘘だった

篠崎千謙は、すらりと伸びた指先でテーブルをこつこつと叩いた。「以前、言っていたはずだ。記憶が消えても、感覚まで消え失せることはないと」

言い捨てると、男は席を立ち、地下室にあるワインセラーへと向かった。

中村詩乃と篠崎夫人は顔を見合わせ、やがて吹き出した。「本当に、素直じゃない人ね」

「ええ。あの子と高坂檸檬さんの今後を心配していたけれど、これでようやく肩の荷が下りたわ」

篠崎夫人は部屋の隅にあるキッズスペースに視線をやった。「なら、改装の必要があるわね。男の子もいるのだから、不公平にならないようにしないと」

「そうね、あの子のためにも急いで部屋を用意しなくては。最高級の建材を使って...

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