第1章

 額の奥を鋭くえぐるような、どくどくと脈打つ痛みに叩き起こされた。

 前の座席では、父の翼と母の由美がすでにシートベルトを外し、狂ったみたいに私の隣の席へとなだれ込んでいた。

「莉奈! ママの赤ちゃん、どう? どこが痛いの!?」

 右隣に座っていた妹の莉奈が、しゃくり上げるように泣き声を漏らす。

「ママ……膝がすごく痛い……もう二度と踊れないの……?」

 実際のところ、莉奈の怪我は車のドア内側で皮膚を少し擦りむいただけだった。

 それなのに由美は世界の終わりみたいな顔で、涙をぼろぼろ流した。

「翼! なんとかして! 莉奈は来月、帝都バレエ学校のオーディションがあるのよ。いつかプリマになる子なんだから。脚に傷跡なんて一つだって残しちゃだめ!」

「分かってる! 誰か止める!」翼は滝みたいに汗をかきながら、ひしゃげた車のドアを蹴り開け、通りかかったピックアップトラックを必死に止めようと一万円札を何枚も振り回した。

 私は唇を開き、声を絞り出そうとした。

「お母さん……頭が……すごく痛い……」

 由美がようやくこちらを向いた。そこにあったのは、嫌悪と苛立ちで濁った目だった。

「栞、どうしてそんなに自分勝手なの?」吐き捨てるように言う。

「妹が怪我してるのが見えないの? それなのに、まだ自分のことばっかり? 今すぐ黙りなさい!」

 翼はすでに運転手と話を終えていた。駆け戻ると、莉奈を腕の中に抱き上げる。

「しっかりしろ、莉奈。パパが一番いい私立病院に連れていく」

 誰も私を見ようともしなかった。

 私は両手と両足を使って、ひしゃげた車体から痛みに耐えながら這い出した。

 翼がトラックのドアを閉めようとした、その瞬間。私は血にまみれた手をようやく伸ばし、ドアの縁を掴んだ。

「私も……連れて……」視界が、もう滲み始めていた。

「離しなさい!」

 由美が叫ぶと、靴のかかとを私の肩へ容赦なく叩き込んだ。

 蹴り飛ばされ、後頭部が再び地面に激しく叩きつけられる。

 翼が怒鳴り声を上げた。

「妹が怪我してるのが分からないのか! 莉奈は横になって休むんだ、後部座席は全部必要なんだよ! お前はお前で何とかして、道路脇で救助を待て。俺たちの邪魔をするな!」

 ドアがバンッと閉まり、車は勢いよく走り去った。

 血がますます溢れ、息は次第に苦しくなっていく。

 もうだめだ、と思いかけたとき――道路の向こう端に、二つのヘッドライトが現れた。車が猛スピードで近づいてくる。

 残った力のすべてをかき集め、私は血に染まった手をかすかに空へ持ち上げた。

 キィィィ――。

 車が私の横で急ブレーキをかけた。

 ドアが勢いよく開き、慌ただしい足音が続く。

「まあ、なんてこと! 誠、この子を見て!」

 耳元で、優しい女性の声がした。次いで、傷に触れないよう慎重な手が、血溜まりの中から私の身体を持ち上げる。

「出血がひどい! 洋子、後部座席から毛布を取って。今すぐ白百合総合医療センターへ運ぶぞ!」

 私はそっと後部座席へ横たえられた。洋子が毛布をきつく巻きつけ、震える手で私の額の傷を押さえる。涙まじりの声だった。

「かわいそうに……怖くないよ。頑張って。私たちはあなたを置いていかないから……」

 意識が遠のき、私は闇へと滑り落ちていった。

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