第5章 誰の代わりでもない

校門の前で、夕陽が空一面を茜色に染めていた。

歩いていた私は、呆然と立ち止まる。指の関節が白くなるほど、強くリュックの肩紐を握りしめていた。

山田おじさんが私の目の前にしゃがみ込む。その体からは、旅館特有の木の香りが漂ってきた。彼はまっすぐに私を見つめてくる。その瞳には一切の咎める色はなく、ただ深い気遣いだけが満ちていた。

「どうして『いらない子』なんて言うんだ?」山田おじさんは何かを驚かせないように、そっと優しく問いかけた。

私は俯き、山田おじさんの目を見ることができなかった。さっき職員室で、私は咄嗟に心の奥底にある一番の恐怖を口走ってしまったのだ。

「俺や千代が、お...

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