第5章 誰の代わりでもない
校門の前で、夕陽が空一面を茜色に染めていた。
歩いていた私は、呆然と立ち止まる。指の関節が白くなるほど、強くリュックの肩紐を握りしめていた。
山田おじさんが私の目の前にしゃがみ込む。その体からは、旅館特有の木の香りが漂ってきた。彼はまっすぐに私を見つめてくる。その瞳には一切の咎める色はなく、ただ深い気遣いだけが満ちていた。
「どうして『いらない子』なんて言うんだ?」山田おじさんは何かを驚かせないように、そっと優しく問いかけた。
私は俯き、山田おじさんの目を見ることができなかった。さっき職員室で、私は咄嗟に心の奥底にある一番の恐怖を口走ってしまったのだ。
「俺や千代が、お...
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チャプター
1. 第1章 運命の分かれ道
2. 第2章 運命との引き合い
3. 第3章 山田鈴子
4. 第4章 運命の挑戦と守護

5. 第5章 誰の代わりでもない

6. 第6章 横暴な御曹司

7. 第7章 合気道と温泉家族

8. 第8章 異なる選択、異なる人生

9. 第9章 最高の結末


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