第196章

まだ退勤前だというのに、水原念のスマホが鳴った。相手は水原雲成――父だった。

「今夜は約束しただろう。玉海ホテルで友人に会うんだ。必ず行け。絶対に忘れるな」

「……」

本当は「うっかり忘れてた」で誤魔化して、少し休むつもりだった。

けれど本人から直々に電話が来た以上、その言い訳はもう使えない。逃げ道も塞がれた。

「お父さん、安心して。必ず行くわ。いい報告、待ってて」

通話を切ると、水原念は深く息を吐いた。

どうせ雲成が用意したのは、十中八九お見合いだ。

気が進まない。けれど鈴木直哉とは、すぐに離婚できる状況じゃない。雲成を安心させるには、こうして“次”に会い続けるしかなかった...

ログインして続きを読む