第210章

 事がここまで拗れた以上、水原念も鈴木直哉も、もうここに留まる気にはなれなかった。

 二人でエレベーターに乗り込み、そのまま立ち去るつもりだった。

 さっきの一件が頭から離れないのか、鈴木直哉は眉をひそめて言った。

「……あのジジイ、おまえに触ったのか?」

 水原念の性格なら、佐藤賢一みたいな色狂いと親しいはずがない。ましてや自分から「鈴木若奥様」などと名乗り出るとも思えない。

 それなのに、佐藤賢一は彼女が「鈴木若奥様」だと知っていた。だとしたら、あの男が手を出そうとして、水原念が逃げきれず、身を守るためにその肩書きを持ち出した——そう考えるのが自然だった。

 彼女がその「身分...

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