第223章

  周囲のひそひそ声を聞きながら、上原円は向かいで俯いて食事をしている水原念を観察した。

「……あの言われようで、腹立たないの?」

 水原念は口の中のものを飲み込み、箸を置かずに淡々と言った。

「今は、私のことを知らないからです。ここで長く働いて、私がどういう人間か分かれば……きっと、もうあんなことは言わなくなります」

 それに――ああいう根も葉もない噂が広がったのは、自分にも落ち度がある。

 あのとき、医師の現場を離れるなんてことをしなければ。鈴木直哉の「可愛い奥さん」などに収まろうとしなければ。こんな話は出なかったはずだ。

 噂は、いまの自分にとって都合のいい戒めでもある。

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