第262章

 黒瀬初花が必死に諭した。

 水原念が脳神経外科に来てから、まだ日が浅い。けれど短い付き合いの中でも、黒瀬初花には分かっていた。水原念は、根っからの善人だ。

 だからこそ、傷ついてほしくない。患者の家族に罵られる姿なんて、見たくない。

「この男には、刃物を持ち込んだ前科があるんでしょ。だからこそ、私が引かないといけないんです。もし私を見失って逆上して、ここで包丁を振り回したら……残ってる医療スタッフも患者さんも、ご家族も危ない」

 黒瀬初花は口を開けたまま、言葉を失った。

 自分たちや患者のことまで考えているなんて、思いもしなかった。けれど――

「ここに残ったら、あなたが危ないよ...

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