第265章

見物人たちは恐怖で頭が真っ白になり、悲鳴を上げながら四方へ散って逃げた。

駆けつけた警官が怒鳴る。

「刃物を捨てろ!」

水原念は口元をきゅっと引き結び、包丁を振り上げて突進してくる奥村元を見据えた。

男は完全に頭に血が上っている。こちらが動けるのは、せいぜい一秒。

――でも、それで十分。

勝算はある。

奥村元が間合いを詰めてくる。水原念は銀針を挟んだ指をすっと持ち上げた。

銀針を放とうとした、その瞬間。

「だめえっ!」

中村誠美が叫びながら飛び込み、水原念と奥村元の間に割って入った。

彼女は水原念に背を向け、奥村元の腕にしがみつく。真っ赤に潤んだ目で見上げて、震える声で...

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