第286章

夏目清子は、本気で気が狂いそうだった。

唇をぎゅっと噛みしめ、両手をめちゃくちゃに振り回して、周りの人間を追い払おうとする。だが人の数が多すぎた。潮のように、うねりのように、次から次へと押し寄せてくる。次の瞬間には呑み込まれてしまいそうで——。

恐怖で胸が潰れそうになり、涙がぽろぽろと大粒で落ちた。

「お願い……やめて。行かせてください。お願いだから、行かせて……」

清子が弱さを見せた途端、嗅覚の鋭い記者がすかさず食いつく。

「夏目さん、後悔してるんですか? 今後も鈴木様と一緒にいるおつもりですか?」

「どいて!」

清子は怒鳴った。

それでも記者は引かない。

「夏目さん、逆...

ログインして続きを読む