第298章

水原念は鈴木直哉を、しばらくのあいだ見つめていた。

恐怖で回らなくなりかけていた頭が、少しだけ働きを取り戻す。

けれど、その意識が引き戻したのは「今」ではない。五年前――地震が起き、彼と一緒に瓦礫の下に閉じ込められた、あの時だった。

あの時の私は、もう持たないと思った。生きたいという気持ちすら、手放しかけていた。

信念をくれたのは、隣でずっと意識を失っていた鈴木直哉だった。

私が死ぬのはいい。だけど、鈴木直哉が私に付き合って死ぬのだけは、絶対に嫌だった。

水原念は舌先を噛む。痛みで無理やり意識を澄ませると、ふらつく脚に力を入れて立ち上がり、鈴木直哉を引っ張って起こした。

「行く...

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