第276章 生まれながらの亡命徒

橘芹奈の両手はまだ縛られたまま。思うように動かせない。

「さん」は股間を押さえて苦悶の声を漏らし、反射的に「に」がその口を塞いだ。

「クソが……」

「いち」は吐き捨てるように悪態をつくと、手のひらにべっとり唾を吐きかけた。

三人とも顔立ちがよく似ている。兄弟――いや、下手をすれば一家に見えるほどだ。

「いち」は顎にヒゲもなく、体格もいちばんごつい。目つきがいっそう凶悪になったかと思うと、橘芹奈めがけて突進してきた。倒して踏みつける気だ。

橘芹奈は身をひねって脇へ躱す。同時に周囲を走査した。使えるもの――武器になるものはないか。

郊外の廃れた製鋼工場。残っているのは錆びついた机と...

ログインして続きを読む