第1章

秋の夕日が、岬ヶ丘町を金色に染めていた。

私は展望台の端に立っていた。海風に煽られたドレスが、まるで囚われた白い蝶のようにひらひらと舞う。

ここは、私自身のために設計した結婚式場。皮肉にも、ここが私の墓標となった。

「邪魔だったのよ、お姉ちゃん」

背後から響いた亜美の声は、蜂蜜のように甘く――そして、冬のように冷たかった。振り返る間もなく、強い力で背中を突き飛ばされた。

無重力になったその一瞬、時間が止まったように感じた。不気味なほど私に似た亜美の顔が見えた。勝ち誇ったような笑み。その瞳の中で、夕日が炎のように燃えているのが見えた。

そして、私は落ちた。

耳を満たすのは、打ち寄せる波の音。叫びたい、何かに掴まりたいと思っても、すべてはあまりに一瞬の出来事だった。岩、海水、焼けるような痛み――

闇が、私を丸ごと飲み込んだ。

「理奈! 理奈!」

はっと目を開くと、心臓が肋骨を激しく打ちつけていた。見慣れた事務所休憩室の天井が目に入る。ブラインドの隙間から差し込む太陽の光が、壁に影を落としていた。

私、生きている……?

テーブルでスマートフォンが狂ったように震えている。震える手でそれを掴んだ。画面に表示された日付に、血の気が引いた――

四月十五日。

一年前の、四月十五日。

婚約パーティーの一週間前。

ソファから身を起こすと、全身ががたがたと震えた。あり得ない。私はあの秋の夜、自分で設計した完璧な結婚式場で、亜美の手に突き落とされて死んだはずだ。

なのに、私はここにいる。すべてが始まった、あの場所で。

テーブルの上には、木村拓海との結婚式の計画書が置かれている。丹念に選んだ花々、数えきれないほど夢見た細部。そのすべてが、今では残酷な冗談のように思えた。私を愛していない男のために、決して実現することのない結婚式を計画していたのだ。

前の人生では、馬鹿みたいにすべての嘘を信じていた。

拓海が残業だと言えば信じた。亜美が私のことを心配していると言えば信じた。婚約パーティーの日、休憩室で二人がキスしているのを目撃するまでは。拓海の腕は亜美の腰に回され、彼の襟には亜美の口紅がべったりと付いていた――

私は皆の前で、完全に我を忘れてしまった。壊れた人形のように泣きじゃくった。

そんな私を亜美は抱きしめ、甘い声で囁いた。「お姉ちゃん、泣かないで。拓海も、男なら誰でも犯す過ちを犯しただけよ」

その瞬間、会場中の視線が私に突き刺さった。憐れみ、同情、そして囁き声――「理奈って退屈だもんね、男を繋ぎ止められないのも無理ないわ」

私は町の笑いものになった。

不意にドアベルが鳴り、私は記憶から引き戻された。まだ覚束ない足で、無理やり立ち上がる。

配達員が、茶封筒を手に立っていた。差出人の住所も名前もない。

ドアを閉め、指で封筒の縁をなぞる。前の人生では、こんな配達物は受け取ったことがなかった。

息を呑みながら、封筒を破り開けた。

中には、数枚の写真が入っていた。

海辺のホテルの前に停められた、拓海の車。ナンバープレートもはっきりと写っている。隅のタイムスタンプは、昨夜の午後十一時を指していた。

二枚目の写真は、車の窓ガラスを写したものだった。ガラス越しに、拓海のシルエットが女のそれと絡み合っている。

三枚目はさらに良い角度から撮られており、その女の横顔に、私は胃がひっくり返るような衝撃を受けた。

亜美だった。

私の婚約者と、腹違いの妹。婚約パーティーの一週間前に、二人で夜遅く密会していたのだ。

もしこれが前の人生だったら、私はとっくに崩れ落ちていただろう。泣きながら拓海に電話をかけ、答えを求めて叫び、結局は彼の嘘に丸め込まれて、「きっと偶然だったんだ」と自分に言い聞かせていたはずだ。

だが――今の私に残っていたのは、氷片のように鋭く、底まで凍りついた明晰さだけだった。

指先で一枚、また一枚と写真を滑らせ、テーブルの上に並べていく。視線は証拠をなぞりながら、記憶の奥底に沈んでいた光景を次々と引きずり上げていった。婚約パーティーでの裏切り。結婚式の準備期間中に浴びせられた精神的な拷問。日に日に露わになっていく拓海と亜美の不貞――そして最後には、崖っぷちで私を死へと追い詰めた亜美の手。

「今度は、もう馬鹿な真似はしない」鏡の中の自分に、私はそう告げた。

そこに映る女の瞳には、もはや弱々しさのかけらもなかった。一度死を味わい、裏切りの本当の顔を知った女は、二度も同じ嘘に騙されたりはしない。

私はスマートフォンを掴むと、素早く文字を打ち込んだ。「話がある。今夜」

送信先は、拓海。

それから振り返ると、ライターを手に取り、結婚式の計画書に火をつけた。紙は丸まり、黒ずみ、灰となって崩れ落ちていく。美しかった夢も、無邪気な希望も、すべてが煙と共に消え去った。

もう、必要ない。

一分一分が、這うように過ぎていく。私は事務所で座ったまま、これから始まる会話を頭の中で何度もリハーサルした。手の内を見せてはいけない。彼らの企みに気づいたことを悟られてはならない。

夜七時きっかりに、拓海がドアを開けて入ってきた。

かつて私が好きだった青いシャツを着て、人好きのする笑みを浮かべている。昔は、その笑顔は私だけのものだと思っていた。今では、彼が出会うすべての女に向けるものだと知っている。

「どうしたんだ?理奈」彼はいつものように私の腰に腕を回そうと、近寄ってくる。

私は一歩下がり、その手を避けた。

拓海は一瞬固まったが、すぐに笑顔を取り戻した。「どうしたんだ?」

私は答えなかった。代わりに、テーブルの上に一枚ずつ、写真を叩きつけた。

乾いた音が、静かな事務所にパン、パンと響き渡った。

拓海の顔から、笑みが消えた。

彼の視線が、写真と私の間を忙しなく行き来する。その顔に動揺が走り、頭の中で必死に言い訳を探しているのが見て取れた。

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