第2章

星奈視点

足にしがみつく智良の温もりと、耳に残る達也の悲痛な声。その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れ去った。心の奥底に封じ込めていた記憶が堰を切ったように溢れ出し、私は自分の愚かさという苦い味に溺れていく。

あの頃、私は十七歳だった。松本さんにもらったお下がりのカーディガンを羽織って。百円ショップの安っぽいボタンでリメイクしたものだった。午前中ずっと本棚の整理をしていた指先は赤く荒れ、私は図書室のガタつく脚立の上で、誰も借りない埃をかぶった古典文学が詰め込まれた最上段の棚に手を伸ばしていた。

その時だ、彼が入ってきたのは。

二十歳の黒木達也。冬休みで大学から帰省していた彼は、完璧な髪型に高そうなジャケットを身に纏い、まるでファッション雑誌から抜け出してきたようだった。黒木家の「期待の星」である彼の姿は街で見かけたことがあったけれど、こんなに近くで見るのは初めてだった。

私は上の棚にある『高慢と偏見』に必死で手を伸ばし、ようやく指先で触れた。でも、その安堵感もほんの一瞬だった。憎たらしい本は私の手から滑り落ち、他の数冊も一緒に落ちていった。

「しまった!」

私は思わず悪態をつき、熱くなる頬を手で覆った。やってしまったわ、星奈。

その時、彼の笑い声が聞こえた。胸がきゅっとなるような、温かく深みのある響き。

「手伝おうか?」

見下ろすと、彼は私のすぐ真下に立っていた。落ちてきた本を見事キャッチし、面白がるような笑みを浮かべている。近くで見ると、彼はさらに魅力的だった。深い茶色の瞳、片方の口角を上げた独特の笑み。そして何より、私を見るその目。下町の清掃員の娘としてではなく、一人の人間として価値があるかのような眼差しだった。

「大丈夫です」

私はぼそぼそと呟きながら、酔っ払った子供のようにふらつきながら脚立を降りようとした。

だが、彼はもうそこにいた。片手で脚立を支え、もう片方の手を私に向けて差し出している。指先が触れた瞬間、腕に電気が走ったような感覚だった。

「君はまるで『ジェーン・エア』だね」彼は優しく、どこか思慮深げに言った。「小さくても勇敢で、不可能なものに必死で手を伸ばしている」

私は危うく脚立から転げ落ちるところだった。

本の登場人物に例えられたことなんて一度もなかった。誰もが私のことを、字が読めるだけのただの貧乏人としてしか見ていなかったのに。

その日、私たちは本のことや夢のこと、彼が大学で見てきた世界について語り合った。その最中、私は紙の端で指を切ってしまった。すると彼は間髪入れずにハンカチを取り出し――今どきハンカチなんて誰が持ち歩くのよ?――私の指に優しく巻き付けた。

「君の目は素晴らしいな」親指で私の指関節を撫でながら、彼は言った。「まるでエメラルドみたいだ」

自分を美しいなんて思ったことは一度もなかった。穴の開いた靴を誰にも見られないように祈りながら、お下がりを着て生きるだけの哀れな存在。そう思っていた。

でも、達也にあんな風に見つめられると、私にも何かになれるんじゃないか、私にも価値があるんじゃないかと信じ始めてしまったのだ。

本格的な初デートは三週間後のことだった。彼は高級外車で迎えに来た――それを見た松本さんは気絶しそうになっていたけれど――そして、街一番の高級レストランへと連れて行ってくれた。布のナプキンに、誰も使い切れないほどの数のフォークが並ぶような、この寂れた田舎町には不釣り合いな店だ。

私は持っている中で唯一まともなドレスを着ていた。松本さんが八十年代の古着を仕立て直してくれた紺色のドレスだ。胸元はだぶつき、腰回りはきつくて、ガラスのドアをくぐる自分が完全に偽物のように感じられた。

案内係の女性は、隠そうともしない軽蔑の眼差しで私をじろりと品定めしてから席へ通した。店中の視線が突き刺さるのを感じた。皆が囁いているのが聞こえるようだった。「黒木さんがなんであんな女と?」

ウェイターがワインリストを持ってきた時、私はパニックに陥った。コンビニで売っている千円程度のボトルしか見たことがないのに、そのリストはまるでフランス語の小説みたいだった。

「わ、私はお水だけでいいです」

頬を燃えるように赤くして、私は早口で言った。

達也は私には読めないフランス語の料理名を注文した。料理が運ばれてくると、私は完全に途方に暮れた。これがフランス料理? 見た目はビーフシチューのようだけれど、名前の意味も分からないのに、どうやって食べればいいというの?

テーブルに並んだカトラリーがまるで試験問題のように見えた。どれから使えばいいの? 私は達也の手元をそっと観察した――彼は慣れた様子で自然に食事を進めている――けれど、私が間違ったフォークを掴んだ瞬間、ウェイターが呆れたように眉を跳ね上げたのが見えた。

「違うよ、そっちじゃない」達也は優しく声をかけると、手を伸ばして教えてくれた。「外側から順に使うんだ」

でも、もう手遅れだった。他のテーブルからの嘲笑うような視線や、ヒソヒソという話し声が突き刺さる。ウェイターの顔には、勝ち誇ったような意地悪な笑みが浮かんでいた。

穴があったら入りたかった。気取ったメニューと、他人を値踏みするような客で溢れかえる、この息苦しい店ごと消えてしまいたかった。

けれど達也は笑わなかったし、恥ずかしがる素振りも見せなかった。彼は身を乗り出し、こう言ったのだ。

「マナーなんてどうでもいい。好きなように食べればいい」

そう言うと、彼は何の食器も使わず、素手でパンを掴んで食べた。まるで二人だけの秘密の悪戯を共有しているかのように、ニカっと笑って。

「育ちなんて関係ない」真剣な眼差しで彼は付け加えた。「君は僕が出会った中で、誰よりも美しい心を持っているんだから」

その夜、松本さんの小さな家まで送ってくれた彼は、点滅する街灯の下で初めてキスをしてくれた。柔らかく、甘く、まるでラブコメ映画のワンシーンみたいだった。

彼は私に信じさせてしまったのだ。シンデレラだって王子様を捕まえられるんだと。でも、おとぎ話なんて全部デタラメだ――いつだって、そうだったんだ。

七年間。彼にとっての「汚れた小さな秘密」であり続けた七年間。人目を避けてこっそりと会い、まるで盗んだ時間のように過ごしてきた。彼が大学の友達に私を紹介してくれないことも、家族の集まりに一度も呼んでくれないことも、気づかないふりをして我慢し続けた。

二十四歳になった時、私はようやく覚悟を決めて「話し合い」を迫った。場所は夜の市長室――白昼堂々と二人でいるところを誰かに見られるわけにはいかないからだ。私は何週間もかけてセリフを練習していた。

「達也」心臓が早鐘を打つ中、私は切り出した。「話があるの」

彼は会議資料をパラパラとめくり、顔も上げずに答えた。「どうした?」

「私たちのことよ。将来のこと」私は深く息を吸い込んだ。「付き合って七年になるわ。そろそろ結婚について話してもいい頃じゃない?」

会議資料がバサリと机に投げ出された。彼が私を見た時、その表情は冷徹で、私の胃は底なし沼に落ちたような気分になった。

「結婚なんてただの紙切れだろ、星奈。俺たちの関係は本物だ。それを証明するために、なんで法的なくくりが必要なんだ?」

「私があなたにとって大事な存在だって、みんなに知ってほしいからよ」言い返した自分の声が、情けないほど小さく響いた。「悪いことをしているみたいに隠れるのは、もう疲れたの」

彼は立ち上がり、髪をかき上げた。「そういうこと言うなよ、星奈。男に依存するような、重い女にはならないでくれ。俺たちの愛は純粋だ。誰かの許可なんて必要ないだろ」

「俺たちの愛」まるで現実世界に触れたら壊れてしまう、繊細なガラス細工か何かのように彼は言った。

「じゃあ何、私は一生あなたの愛人のまま? 結婚にふさわしい相手が見つかるまでの、ただの都合のいい女?」

「そんな言い方――」彼は奥歯を噛み締めた。「大げさすぎるぞ」

「そうかしら? あなたが私を恥じているようにしか思えないんだけど」

「恥じてなんかない」でも、彼は私の目を見ようとしなかった。

「なら証明して。結婚してよ、達也。この関係を本物にして」

沈黙が深い溝のように二人の間に横たわった。自分の心音と、壁にかかった時計が私の夢を刻一刻と崩していく音だけが聞こえた。

「行かなきゃ」ついに彼はそう呟き、ジャケットを掴んだ。「また電話する」

とどめを刺されたのは、それから二ヶ月後のスーパーでのことだった。シリアルの棚の前で、有名メーカーのものにするか、安い類似品にするか迷っていた時、あの会話が聞こえてきたのだ。

「あの子、可哀想にねぇ」近所の山下さんが、わざとらしい同情を含んだ声で言った。「まだ黒木家の男を捕まえられると思ってるのかしら」

「七年もあの子を追いかけ回して」近所の鈴木さんが含み笑いをする。「誰か教えてやればいいのに。達也くんみたいな男は、あんな子とは結婚しないって。もっといい相手が現れるまでの暇つぶしよ」

「何を期待してるんだか。おとぎ話の結末? あの子は所詮、清掃員の娘じゃないか。遊び相手には可愛くていいだろうけど、黒木家の格には合わないわよ」

彼女たちの笑い声が、胸を焼くように痛んだ。私は棚に身を押し付け、爪が掌に食い込んで血が滲むほど拳を握りしめた。

街中の人間が知ってるんだ。私は打ちのめされた。みんな、私が彼の一時的なオモチャだって分かってる。

その夜、私は洗面所の鏡に映る自分を見つめた。眠れない夜と空虚な約束のせいで、目は窪んでいた。

七年かけても指輪がもらえないなら。

私は震える手で、棚からコンドームの箱を掴み出した。

赤ちゃんができれば、彼も腹を括るかもしれない。

だから、私はやった。針を手に取り、一つ残らず、全ての袋に小さな穴を開けた。

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