第3章
星奈視点
あのコンドームに細工をしてから二週間が経っても、私はまだ歪んだ優越感に浸っていた。毎朝目が覚めるたびに、「今日こそは」と期待に胸を膨らませる。黒木達也市長に、その輝かしい名声よりも私を選んでもらうための、決定的な切り札を手に入れる日が来ることを。
その火曜日の午後、私が図書館で新刊の配架作業をしていると、彼女が入ってきた。
あの忌々しい、白石結衣だ。
先月の地元紙の一面を飾っていたから、すぐに分かった。大きな文学賞を受賞して故郷に錦を飾った有名作家。こんなど田舎の町は、彼女のような成功者に群がりたがる。昔は彼女をゴミのように扱っていたくせに。
彼女はまるで自分の城でもあるかのように、図書館の中を我が物顔で歩いていた。栗色の髪をなびかせ、見るからに高価な服に身を包んでいる。あのトレンチコートは、ファッション雑誌から抜け出してきたようだ。バターのような滑らかな革、完璧な仕立て。私がウィンドウショッピングでさえ躊躇するような代物だ。
私は気配を消そうと、伝記コーナーの棚の陰にしゃがみ込んで本の整理を続けた。頭を下げていれば、彼女は用事を済ませてさっさと帰ってくれるかもしれない。
だが、そう上手くはいかなかった。
「すみません」
洗練された、澄んだ声だった。まるで上流階級の私立学校出身者のような響きだ。
「郷土史についての資料を探しているの。地元の名家に関するものはないかしら?」
私は立ち上がり、古着屋で買ったセーターの埃を払いながら、彼女と目を合わせないようにした。
「郷土史なら、あちらです」私はボソボソと呟き、案内した。
埃っぽい本棚を眺める彼女の視線が、まるで実験動物を見るように私を値踏みしているのを感じた。
「そういえば」開拓時代の入植者に関する革装丁の本をめくりながら、彼女は何気ない口調で言った。「黒木達也市長には、取材ですごくお世話になってるの。とても魅力的な方ね、そう思わない?」
全身の血が凍りついた。
「私には……分かりません」私はしどろもどろに答えた。
彼女は、私が壁を殴りつけたくなるような、鈴を転がすような軽い笑い声を上げた。「あら、やだ。こんな小さな町でしょう? 誰が何をしてるかなんて、みんな知ってるじゃない」
その微笑みには捕食者のような鋭さがあり、私の頭の中で警報が鳴り響いた。
「地域の歴史について、すごく鋭い洞察を与えてくれるの」彼女は蜜のように甘く、しかし毒を含んだ声で続けた。「夕食をご一緒しながら、何時間もお話ししたわ。本当に紳士的な方ね。あの流線型の高級外車で迎えに来てくれて、街一番の高級レストランに連れて行ってくれたの。あのお店、知ってるでしょう?」
知っているに決まっている。そこは彼が初デートで連れて行ってくれた場所だ。安物のドレスを着て、フォークの使い方も分からずまごついた場所。それを今、彼はこの高慢ちきな女を連れて行き、もてなしているのだ。
「本当に素敵な方」彼女は付け加えた。「でも、あなたならもうご存知よね……牧野さん、だったかしら?」
彼女が私の名前を吐き捨てるように言ったその響き、まるで口の中に嫌な味が残ったかのような言い方に、私は消えてしまいたくなった。
彼女は完全に向き直り、鋭い緑色の瞳で私の古着、噛んで短くなった爪、猫背の姿勢をじろじろと眺めた。
「あなたが、彼が話していた司書さんね」彼女は冷淡に言い放った。「まあ……なんと素朴なこと」
顔から火が出るようだった。全部ぶちまけてやりたかった。彼女が都会で売れっ子作家気取りをしている間、達也と私が何をしていたか。でも、私はただ頷き、「他に必要なものがあれば、おっしゃってください」とボソボソ言うことしかできなかった。
「ええ、もう十分よ」彼女はあの猛毒のような笑みを浮かべて答えた。「達也さんが、十分すぎるほど助けてくれてるから。実は今夜もまた食事に行くの。彼って、本当にいい人だわ」
彼女は女王様のように本を貸出手続きし、ブランド物のヒールで私を踏みつけるガムか何かのように置き去りにして去っていった。
あの女、知っていたんだ。どういうわけか私たちのことを知っていて、自分の所有権を主張しに来たのだ。
それから三日後。午前四時、私は狭いアパートのトイレで便器にしがみつき、今週三度目となる嘔吐に苦しんでいた。
お願い。私のような絶望的な女の声に耳を傾けてくれる神様がいるなら、どうか。妊娠していて。
薄い壁の向こうでは松本さんがまだイビキをかいていた。私はパジャマにサンダルという格好でこっそりと部屋を抜け出し、二十四時間営業の薬局へ向かった。こんな時間に妊娠検査薬を買いに行くなんて、どこからどう見ても悲惨な女だ。
レジにいた男の子はスマホから目を離そうともせず、私がしわくちゃの紙幣をカウンターに叩きつけ、箱をひったくるのを無視した。
家に帰り、バスタブの縁に座り込む。震える手で、まるで自分の命がかかっているかのようにスティックを見つめた。
すぐに一本の線が現れた。そして、ゆっくりともう一本の線が浮かび上がってくる。
二本線だ。嘘……マジで? 上手くいったんだ。
私は黒木達也市長の子供を妊娠したのだ。
一瞬、自分が無敵になったような気がした。これこそが私の切り札。彼に私を真剣に見てもらうためのきっかけよ。自分の子供の母親を無視して逃げるなんて、できるわけがないでしょう?
人生でこれほど緊張したことはなかった。
達也のマンションの前、買い物袋が腕に食い込む痛みを感じながら、早鐘を打つ心臓を抑えて深呼吸し、ドアをノックした。
ドアを開けた彼は驚いた顔をしていた。いつもなら、会うときは事前に約束しているからだ。
「星奈? どうしたんだ?」
「驚かせたくて」私は努めて自信ありげな声を出し、「夕飯、作りに来たの」と言った。
彼は一瞬じっと私を見ていたが、やがて表情を和らげ、数年前に私を夢中にさせたあの笑顔を見せた。「入りなよ、星奈」
私は気を落ち着かせるためにキッチンに立ち、彼の好きなチャーハンを作った。彼はビールを片手にカウンターに座り、その様子を眺めている。ほんの一時、それが普通のことのように思えた。まるで、私たちが本物のカップルであるかのように。
「今夜は静かだな」部屋の照明を少し落として食事をしながら、彼が言った。
「話があるの」私は囁いた。
彼は片眉を上げた。「深刻そうだな」
その通りだった。私は彼の目を見て、一気に言葉を吐き出した。「達也……私、妊娠したの」
その言葉は爆弾のように場を支配した。私は彼の顔を見つめ、爆発の余波に身構えた。
ビール缶がテーブルにカツンと硬い音を立てて置かれた。彼から温かみが消え失せ、氷のような疑惑が取って代わる。
「なんだって?」
「妊娠したの。私とあなたの赤ちゃんよ」
彼は椅子を荒々しく引いて立ち上がった。「わざとやったな」
「何を言って――」
「ふざけるな、星奈」彼の声は低く、殺意を帯びていた。「コンドームに細工しただろ?」
口の中が乾いた。どうしてバレたの?
「喜んでくれると思って……」
「喜ぶ?」彼は嘲るように笑ったが、そこにユーモアのかけらもなかった。「騙されてこんなことになって、俺が喜ぶとでも思ったのか?」
涙が頬を伝った。「愛してるの。赤ちゃんができれば、きっと――」
「俺を縛り付けられるとでも?」怒りで彼の手が震えていた。「お前みたいな育ちの悪い底辺の女と、無理やり結婚させられるとでも思ったか?」
その言葉は私の胸を突き刺した。私は守るようにお腹を抱きしめた。「家族になれるわ。結婚して、子供を育てて……」
「お前と結婚なんてするわけないだろ、星奈」彼は言葉の一つ一つをナイフのように吐き捨てた。「今も、これからもだ。お前はただの『汚れた秘密』だ。それ以外の何者にもなれない」
その時、彼のスマホが鳴った。
彼が画面を確認すると、その瞬間に雰囲気が一変した。怒りは消え去り、私には一度も向けられたことのないような、柔らかい表情が浮かぶ。
「電話に出なきゃ」相手が誰なのか、私には痛いほど分かった。
「やあ、結衣」彼は私など存在しないかのように背を向けて電話に出た。その声は温かく、慈愛に満ちていた。かつては私だけのために取っておかれた声だ。「ああ、大丈夫だよ。ちょっと……用事を片付けていたところさ。うん、二十分で行ける。楽しみにしてたよ」
電話を切ると、彼は私に向き直った。その目は死んだように冷たかった。「出ていけ」
「達也、お願い――」
「俺の部屋からさっさと失せろ。二度と来るな」
抗議したかった。私たちにはその権利があると叫びたかった。でも、彼の顔がすべてを物語っていた。そこには愛も、良識すらも残っていなかった。
私は震える手でバッグを掴み、ドアへと向かった。最後に一度だけ振り返る。彼は廊下の鏡でシャツの乱れを直していた。彼女のために。あの忌々しい白石結衣と、私が決して触れることのできない彼女の完璧な世界のために。
「彼女にそれだけの価値があるといいわね」私は囁いた。
彼は顔も上げなかった。「あるさ」
ドアが閉まる音は、私の夢が砕け散る音だった。私は廊下に立ち尽くし、平らなお腹に手を当てた。どうしようもない孤独が押し寄せる。
私はすべてを賭けた。そして、負けたのだ。
