再会
七時にアラームをセットしていたにもかかわらず、セリーナは朝六時から一日を始めることにした。三時に目が覚め、そのあとも落ち着かない眠りにようやく戻っただけだった。結局六時になると、もう一度眠ろうとするのをやめ、起き上がることにした。太陽が美しい島を少しずつ照らし始めている。いよいよ、この楽園と知り合う時間だ。
シャワーを浴び、歯を磨くと、彼女はピンクのタイトなドレスに着替えた。細い肩紐で、裾にはフリルの段があしらわれていて、丈が膝上ぎりぎりに見える。足元は茶色のオープントゥのヒール。フレンチのペディキュアがきれいに覗く。洗い立ての髪のもつれをブラシでほどき、くるりとまとめてお団子にし、昔ネット通販で買って以来使っている古いプラスチックの髪用かんざしで留めた。
日焼け止めをひと塗りし、口紅を軽くのせ、アイラインを少し引く。それで準備は万端だった。
ナイトテーブルの上にハウスキーピングへのチップと感謝の言葉を書いたメモを置き、部屋を出る。長い廊下をのんびり歩いてエレベーターへ向かった。
この楽園は自分に味方してくれる――そう確信したのは、呼び出しボタンを押した瞬間、大きな両開きの扉がすぐに開いたからだ。しかも中は彼女ひとり。エレベーターが一階で止まり扉が開くと、セリーナはすぐに降り、朝食を取るつもりだったオープンエアのレストランへの案内表示を探した。見つけるなり入口のホステスに名前と部屋番号を告げ、滝を見下ろす席へと即座に案内された。
黒髪でプカシェルのネックレスをつけた若い男性スタッフがすぐに現れ、以前来たことがあるかと尋ねた。ないと答えると、朝食はビュッフェだと手際よく説明し、レストラン奥で料理が運ばれてくる場所を指さした。そこにはすでに、ぴかぴか光る保温容器がいくつも並べられていた。
空腹でたまらなかったセリーナは、迷う暇もなく、トレーと空の皿を取るために列を作っている人たちの方へ一直線に向かった。
料理を見渡し、まずはエッグベネディクトに、フレッシュパイナップルの角切りを添え、コーヒーも取ることにした。あと数日は朝をここで過ごすのだし、ほかの食欲をそそる品々は追々試せばいい。トレーを席まで運び、食べ始める。いつの間にか客が倍に増えていて、この時間に降りてきた判断が正しかったと裏づけられた。
食事が半分ほど進んだところで、携帯が鳴った。
親友のアイリス・ワージントンから、「起きた?」というメッセージだった。
セリーナは返事の代わりに、テーブルの向こう、緑の芝生の海の真ん中に鎮座する滝へスマホのカメラを向けて写真を撮った。そしてこう添える。「家で結婚式の準備なんてしてないで、私と一緒にこの南国の楽園に来るべきだったのに。大・大・大失敗よ」
送信し、続けて投げキッスの絵文字も送った。念には念を入れて、昨日撮った写真も数枚送りつけ、嫉妬で煮えくり返らせてやる。
心の中でくすくす笑いながら、セリーナはもう一度その写真を見た。自分が切り取った滝の芸術的な美しさに見惚れる。母にも送ろうかと思ったが、すぐに思い直した。アップル・ベイを出るとき、母は「男もいないのに休暇だなんて」と彼女を責め、守ってくれる男なしで出歩くことを咎めたうえに、怠けず働くことを好む勤勉な若者と別れた件について、もう五十回目の説教を浴びせてきたのだ。
かつてのコニー・エリソンという女の真実――彼女は古風で、はるか昔の世代の価値観を手本にしている。コニーは頭の切れるビジネスウーマンだが、「女には男が必要だ」と本気で信じていた。コニーの両親は、女は男に好かれるために、か弱く頼りないふりをして見せるべきだと教え込んでいた。
さらに彼女は、処女性が大切だという考えも娘に植えつけようとしたが、セリーナはそんな時代遅れの価値観に従ったことがない。そもそも、娘に結婚まで純潔でいてほしかったのなら、アップル・ベイから離れた大学へ行くことを許すべきではなかったのだ。
セリーナは意地悪そうに微笑み、スマホの滝の写真を指で拡大した。数年前、謝肉祭の季節にヴェネツィアでロベルトと過ごした情熱的な夜の記憶が蘇り、肌がぞくりと震える。
写真に最後の賛辞を送るように見つめ、そっとスマホを伏せてテーブルに置いた。
ロベルトの筋肉質な身体が頭の中であまりに鮮烈に浮かんでいたせいで、目の前の光景と意識が結びつくまで、ほんの少し時間がかかった。
セリーナは慌ててスマホを掴み、画面を自分の方へ向ける。ロックを解除し、滝の写真に戻って右側へと視線を集中させた。
顔を上げた彼女は息を呑んだ。滝の右手に座っている男を見つめ、思わず声が漏れる。彼の視線は終始テーブルの上に落ちていた。コーヒーカップを唇へ運ぶたびに、ほんのわずか目を上げるが、彼女の方は一度も見なかった。
セリーナは画面をつまむようにして拡大し、ひとりで座るその男を大きく映し出した。
酸素をすべて奪われたように苦しい。けれど、なぜか幸福だった。
「ポール……!」
涙を浮かべ、セリーナは小さく呟くと、滝のそばの孤独な男へと首をはね上げるように視線を戻した。
