第3章

春川真希視点

ベッドの上、彼のシャツ一枚だけを羽織った私を、賢治が耳を真っ赤にしながら見つめている。彼は咳払いを一つすると、視線を逸らした。

「起きないとだめだ」と彼が言う。声の調子がどこか変だ。「シーツを替えなきゃ」

私は首を傾げる。「どうして?」

「君が濡らしたって言ったから」彼はまだ私の方を見ようとしない。「とにかく……あっちに立ってて」

私はベッドから滑り降り、彼が湿ったシーツを剥がしていくのを見守る。彼の手は少し震えていた。クローゼットから新しいシーツを取り出すとき、その肩にどれだけ力が入っているかがわかった。

「よし」作業を終えると彼は言った。「もう自分の服を着て」

私は腕を組む。「嫌」

彼が再び私に目を向ける。ごくり、と彼の喉が動くのが見えた。「真希さん……」

「賢治さんのシャツの方が好き。着心地いいし」私はシャツの裾を撫で下ろし、彼の視線が私の手を追うのを見つめた。「それに、賢治さんの匂いがする」

賢治はベッドの端に腰掛ける。「一体、何がしたいんだ?」

その問い方に、胃がきゅっと縮むような感覚がした。彼の声は疲れていて、どこか傷ついているようにさえ聞こえる。

「何のことかわからない」と私は嘘をつく。

彼が私を見上げる。その顔は真剣だった。「俺は、君と裕也がやってるゲームに付き合うつもりはない、真希さん。彼の嫉妬を煽るために利用されるのはごめんだ」

最悪。彼に利用してるって思われてる。

目の奥が熱くなる。なんでみんな、私がずる賢い女だって思うの? 賢治まで、私が遊んでるだけだって思ってる。

「ごめんなさい」私はドアの方へ後ずさりしながら言った。「私のこと、嫌いなんでしょ。もう邪魔しないから」

でも、部屋を出る前に彼の手が私の手首を掴んだ。

「嫌ってない」彼は静かに言った。「そういう意味じゃない」

振りほどこうとしても、彼は離してくれない。「じゃあ、何?」

彼はため息をつくと、私を引き寄せ、彼の膝の間に立たせた。シャツの上から、彼の手が私の腰に添えられる。

「君の当て馬にはなりたくない」と彼は私を見上げて言った。「君がここにいるなら、本当にそうしたいからであってほしい。俺と、一緒に」

心臓がどきどきと鳴り始める。彼の瞳には、もしかしたらあの夢は正しかったのかもしれないと思わせる何かがあった。

「ここにいたい」私は囁いた。「あなたと一緒にいたい」

彼が何かを言いかけたその時、彼の電話が鳴った。

私たちは二人とも凍りつく。裕也からだ。

「ごめん」と賢治が言う。でも、彼は私を離さない。

電話は鳴り続けている。賢治は出たくない、でも裕也が諦めないこともわかっている、という葛藤の表情を浮かべていた。

考えるより先に、私は彼の膝の上に跨っていた。彼の太腿を両脚で挟むようにして。賢治が息を呑み、彼の手が私の腰をより強く掴む。

「何を――」

私は彼の首に腕を回し、唇が耳に触れそうなくらい近くに顔を寄せる。「出て」私は囁く。「私を見てないって言って」

私の下で、賢治の体が完全に固まる。心臓がものすごく速く脈打っているのがわかった。

電話が一度止まり、そしてまた鳴り出す。

「賢治」私は彼の耳元で吐息を漏らす。「お願い」

彼の肌は燃えるように熱い。首筋に血管が浮き出ているのが見え、呼吸が速くなっている。私が体を引いて彼を見ると、その瞳はとても暗い色をしていた。

彼は電話に出る。

「もしもし?」彼の声は掠れていた。

「賢治、部屋にいんのか?」私にも聞こえるくらい、裕也の声は大きい。「真希、見てないか?」

賢治が私を見つめる。彼が自身の中で葛藤しているのがわかった。だが、やがて彼の顎にぐっと力が入った。

「いや」と彼は言う。「ずっとここにいた。見てない」

「クソッ。あいつ電話に出ねえし、部屋にもいねえんだ。探さねえと」

「他の奴に聞けよ」賢治が言う。「大丈夫だろ、彼女なら」

「ああ、まあな。もし見かけたら、俺に電話させろよ」

賢治は電話を切ると、脇に放り投げた。私たちはただお互いを見つめ合う。私はまだ彼の膝の上で、首に腕を回したままだ。彼は、私が本物だとは信じられない、といった顔で私を見ている。

やがて彼の手が私の腰からウエストへと滑る。私の上にある彼のシャツ越しに、指が大きく広げられた。私たちの間に隙間がなくなるまで、彼は私をぐっと引き寄せる。

「真希」と彼は私の名前を呼んだ。

全てを感じる。彼の肌の熱さ、私の手の下で引き締まった筋肉、そして変わった呼吸のリズム。何か硬いものが私に押し付けられていて、それが何なのかはわかった。顔が熱くなる。

「どかなきゃ」と囁くけれど、本当はそうしたくなかった。

私を離すどころか、賢治は私のウエストを掴む手に力を込める。彼の声はひどく掠れていた。

「やめろ」と彼は私の耳元で言う。「動くな」

彼の唇が私の首筋を掠め、私は身震いした。全身が燃えているみたいだ。

「賢治」と私は息を漏らす。

彼が体を引いて私を見る。その瞳に映るものに、私は眩暈がした。欲望と、渇望。

「俺をからかうな」彼はかろうじて囁くように言った。「できない……君に後悔させたくない」

でも、そんなことを考えるのはもうやめた。私は身を乗り出して、彼にキスをした。

キスは最初は柔らかかったけれど、賢治が何か声を漏らした瞬間、全てが変わった。彼の唇は、まるで飢えているかのように私の唇を貪る。彼の両手は私の髪に絡みつき、まるで私が消えてしまうのを恐れるかのように私を抱きしめた。

裕也にもキスされたことはあるけど、これは違う。

唇が離れると、二人とも激しく息をしていた。賢治の唇は腫れ、髪は私の指でぐしゃぐしゃになっている。

「やばい」彼は囁き、互いに息を整えようと、額を私の額に押し付けた。彼の耳は真っ赤で、恥ずかしいけれど、同時に私から目が離せない、といった様子だった。

「俺……」彼は咳払いをする。声はひどくざらついている。「シャワー浴びてくる」

彼が私から離れるのがどれだけ大変か、私にはわかった。彼の手はまだ私の上にあり、離したくないと言っているようだった。

「冷たいシャワー?」とからかうと、彼の顔はさらに赤くなった。

「ああ」彼は少し笑って言った。「間違いなく冷たいやつをな」

彼はもう一度、素早く、そして優しく私にキスをすると、ほとんど駆け足でバスルームに向かった。シャワーの水が流れ出す音が聞こえ、私は満面の笑みで彼のベッドに仰向けに倒れ込んだ。

マジか。本当に起きちゃった。

私は寝返りを打って、自分の電話を掴む。裕也の番号をブロックし、連絡先を全て削除し、全てのSNSでフレンドを解除する。最高の気分だ。

インスタグラムをスクロールして裕也との古い写真を削除していると、バスルームのドアが開く音がした。湯気が流れ出し、腰にタオルを一枚巻いただけの賢治が現れる。彼の髪は濡れて乱れ、胸には水滴が光っていた。

「ねえ」私は体を起こして言った。「すっきりした?」

彼は私に微笑みかける。そのはにかんだような笑顔に、私の心臓は跳ね上がった。「ああ。ずっと良くなった」

彼がどんな風に見えるか、何か冗談を言おうとした、その時だった。私たちは二人ともそれを聞いた。

廊下を響く、重い足音。だんだん近づいてくる。

そして、裕也の声。大きくて、苛立っている。「賢治! 起きてんのかよ!」

私の血が凍りつく。賢治を見ると、彼の目が見開かれていた。

考える間もなく、私は彼のベッドの毛布の下に滑り込んだ。賢治も素早くベッドに入り、同じように毛布を被る。裕也がドアを激しく叩き始めたのと、それはほぼ同時だった。

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